食道は口から入った食べ物を胃に運ぶための通り道です。
飲食直後の通過障害や痛みの症状として出やすい臓器です。
食道粘膜は胃酸に対応できないために、胃酸の逆流のしやすい下部食道では逆流性食道炎でお困りの方が多いです。
診断には胃カメラでの観察が必要な臓器です。
逆流性食道炎
【病態】
胃酸が食道に逆流して食道粘膜が炎症を起こす病態
【症状】
胸やけ、のどの違和感、呑酸(すっぱいものが上がってくる)、せき、吐気など
【治療】
生活習慣の改善
薬物治療(胃酸分泌抑制剤、消化管運動改善薬)
食道ヘルニア
【病態】
食道と胃の境界がずれているために胃液や胃のガスが逆流しやすい状態
逆流性食道炎を合併しやすいです。
【症状】
基本的には無症状、げっぷや逆流性食道炎の症状
【治療】
経過観察、症状があれば対症療法
食道カンジダ症
【病態】
真菌(カビ)の一種であるカンジダが食道に付着する状態
免疫低下、ステロイド使用が原因になることがあります。
【症状】
無症状~胸やけ、つかえ感、食欲不振
【治療】
症状によっては抗真菌剤治療
食道がん
【病態】
食道粘膜に発生したがん細胞が徐々に広がっていく病気。飲酒、喫煙、中高年の男性、飲酒ですぐに顔が赤くなる方が高リスクと言われます。早期発見のためには、定期的な内視鏡検査が必要です。近年、逆流性食道炎に関連した食道腺癌が増加していることも注意です。
【症状】
飲食時の胸の違和感やつかえ感、胸痛、背部痛、体重減少、声のかすれ
【治療】
病期にあわせた治療が必要
内視鏡治療、手術、抗がん剤、放射線など
食道静脈瘤
【病態】
肝硬変に合併する食道静脈の拡張
【症状】
静脈瘤があるだけでは症状はありませんが、破裂すると吐血や下血をすることがあります。
【治療】
破裂予防のための内視鏡的治療や肝硬変の管理が必要です。
胃について
食べたものは食道を通って袋状の臓器である胃に入ってきます。
胃の働き
①食べ物を貯める
②消化の第一段階(どろどろにする)
③どろどろになったものを十二指腸に送り出す
写真は感染のないきれいな胃ですが、ピロリ菌感染によって各種病気が出来やすい臓器です。
診断には胃カメラでの観察が必要な臓器です。
ピロリ菌感染による慢性胃炎(萎縮性胃炎)
【病態】
ピロリ菌によって胃粘膜が萎縮している。
この状況を放置することで胃がんや胃潰瘍の原因になります。
【症状】
特に症状はありません。
【治療】
ピロリ菌の除菌治療
胃潰瘍
【病態】
ピロリ菌、痛み止め、ストレスが原因となり胃粘膜が損傷されます。
【症状】
みぞおちの痛み、食欲不振、黒い便
【治療】
胃酸分泌抑制剤。ピロリ菌など原因の治療。
胃がん
【病態】
胃粘膜に発生したがん細胞が徐々に広がっていく病気です。
早期に発見することで治癒は可能です。
【症状】
無症状、みぞおちの痛み、食欲不振、黒い便
【治療】
進行度合いによって、内視鏡治療、手術、抗がん剤治療。
胃過形成性ポリープ
【病態】
「傷んだイチゴ」と表現されることもある赤いポリープです。基本的には良性ポリープですが、出血による貧血やがんになってしまう可能性もあります。ピロリ菌感染の合併症とも考えられ除菌治療による縮小・消失効果も期待されます。
【症状】
無症状、黒色便、貧血
【治療】
経過観察、除菌治療、内視鏡的切除。
貧血の精査で認めたポリープです。ピロリ除菌治療で観察中です。
胃底腺ポリープ
【病態】
ピロリ感染のない胃にできる良性ポリープです。
検診などでよくある所見ですが心配ありません。
【症状】
無症状
【治療】
経過観察
健康診断などでよく見られるポリープです。多発することも多いですが基本的には問題ありません。
胃アニサキス症
【病態】
サバ、アジ、サンマ、イカなどを食した後にその寄生虫がヒトの胃に食いつく状態
【症状】
強い上腹部痛、嘔吐
【治療】
内視鏡で摘出
サバ食後の上腹部の痛みで受診された患者さんです。内視鏡で摘出後には症状は速やかに軽快しました。
十二指腸について
十二指腸は胃の奥にある小腸の一部です。
十二指腸乳頭(写真の左上)から胆汁や膵液が出てくることで、食べた物と合流して小腸における消化と吸収につながります。
診断には胃カメラでの観察が必要な臓器です。
十二指腸潰瘍
【病態】
ピロリ菌、痛み止め、ストレスが原因となり十二指腸粘膜が損傷されます。
潰瘍が大きくなると出血や穿孔といった合併症をきたします。
【症状】
上腹部痛、嘔気、食欲不振、黒い便
【治療】
胃酸を抑える薬。ピロリ菌など原因の治療。
上腹部の痛みと黒い便で受診された患者さんです。6週間の胃薬内服とピロリ菌除菌治療を行いました。
十二指腸がん
【病態】
十二指腸は比較的がんのできにくい臓器です。
【症状】
上腹部痛、嘔気、食欲不振、黒い便、黄疸
【治療】
進行度合いによって、内視鏡治療、手術、抗がん剤治療。
本症例は検診で見つかった早期十二指腸癌です。総合病院での内視鏡的切除術で治癒しております。
正式名称:ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)
ヒトの胃粘膜に感染する細菌です。
萎縮性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんの原因となります。
特に、胃がんの99%がピロリ菌感染に由来すると言われ、ピロリ菌感染のある方には除菌治療をすすめております。
除菌治療は1週間の飲み薬で約9割の治療成功率です。治療することで胃がんの予防にも有効と考えられております。
近年感染者は減少しておりますが、20歳までは10%程度、60歳を超すと60%以上の方の胃にピロリ菌が感染していると考えられております。気になられる方は一度相談していただきたいと思います。
【病態】
内視鏡的には潰瘍やがんといった異常所見を認めないものの下記症状が続く状態。
胃・十二指腸の運動異常や知覚過敏、胃酸分泌、ストレスが原因と考えられる。
【症状】
みぞおちの痛み、灼熱感、胃もたれ、食後早期の膨満感など
【治療】
消化管運動改善剤、胃酸分泌抑制剤、漢方、抗不安薬、抗うつ薬
大腸について
大腸は直径約5㎝、長さ約1.5mの消化管で、右下腹部から上行結腸⇒横行結腸⇒下行結腸⇒S状結腸肛門⇒直腸とつながります。小腸から液体として大腸に入ってきた便は、蠕動運動によって大腸を移動する過程で水分や電解質が吸収され、排便に適した硬さの便が形成されます。便は直腸で貯められて排便運動によって肛門から排出されます。
診断にはエコー、CT、大腸カメラが必要な臓器です。症状や疑われる疾患にあわせて検査を選択しております。
虫垂炎
【病態】
盲腸の虫垂という部分に炎症が生じている病態。小児から高齢者まで発症する疾患で、頻度も高い病気です。
【症状】
みぞおちの痛み、右下腹部痛、発熱
【治療】
抗生剤治療、手術療法
大腸憩室
【病態】
大腸の外側に向かって袋状に飛び出た状態です。便秘や加齢によって増加すると考えられております。
【症状】
憩室があるだけでは症状はありませんが、出血や炎症の原因になります。
【治療】
症状なければ経過観察。
大腸憩室炎
【病態】
憩室の中で細菌が繁殖することで炎症を起こす病態。
【症状】
腹痛、発熱
【治療】
抗生剤治療
本症例はエコー検査で診断した憩室炎です。エコーで触って痛いところと憩室の炎症が一致することで診断が確実となります。
大腸憩室出血
【病態】
憩室内の血管がもろくなり出血する病態。
【症状】
腹痛や発熱を伴わない突然の下血
【治療】
経過観察、内視鏡的治療、カテーテル治療、手術療法
本症例は内視鏡的に治療が難しかったため、総合病院でのカテーテル治療で止血となりました。
虚血性大腸炎
【病態】
大腸へ血液を送る血管が一時的に阻害されたことによって、大腸粘膜が傷害を受ける病態。原因として腸管因子(便秘)と血管因子(動脈硬化)が関係していると考えられます。
【症状】
排便困難感⇒左下腹部痛⇒下痢⇒下血といった症状経過が多いです。
【治療】
腸管の安静(絶食や点滴)
本症例は5日間の入院治療(絶食+点滴)で軽快しております。
潰瘍性大腸炎
【病態】
大腸粘膜に慢性的な炎症があり、びらんや潰瘍といった病変が形成される病気。難病の指定がされており、若年者から高齢者まで発症する可能性のある病気です。
【症状】
腹痛、下痢、血便、発熱、体重減少
【治療】
薬物療法(5-ASA製剤、ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤)、血球成分除去療法、手術
大腸色素沈着症(大腸メラノーシス)
【病態】
病気ではありませんが大腸の粘膜が黒っぽくなる状態です。センナ、ダイオウなどの大腸刺激性下剤を長期間内服された患者さんに起きる色調変化です。
【症状】
特にありません。
【治療】
色素沈着自体は問題ありませんが、大腸刺激性下剤の長期使用は効果が弱くなる可能性もありますので可能なら下剤の種類の変更をすすめます。
大腸ポリープ(大腸腺腫)
【病態】
大腸ポリープ(大腸にできるイボ)のうち80%が大腸腺腫と考えられます。大腸腺腫は良性ポリープなのですが、放置することで将来癌になる可能性が高いものです。これらは内視鏡で切除が可能で、癌になる前に取り除くことが重要です。
【症状】
無症状、便潜血検査で陽性、大きさによっては腹痛や便秘
【治療】
内視鏡的切除
早期大腸がん
【病態】
大腸がんは大腸粘膜(内側)から発生し、進行するとがん細胞が大腸壁の深くへ浸潤していく病気です。がん細胞が浅い所(粘膜や粘膜下層)でとどまっている状態を早期がんと呼びます。
【症状】
無症状、便潜血検査で陽性、大きさによっては腹痛や便秘
【治療】
内視鏡的切除、手術
本症例は便潜血陽性のため大腸検査を行いました。ステージ0の早期大腸癌であり内視鏡的切除術にて治癒が得られました。
進行大腸がん
【病態】
大腸がんが深く浸潤した状態です。
【症状】
無症状~血便、便秘、腹痛、下痢
【治療】
手術、抗がん剤治療
本症例は時々血便ため大腸検査を行いました。進行大腸癌の診断後に総合病院で手術治療を受けていただきました。
食生活の欧米化によって日本人の大腸がんは増加しております。死因の第1位である悪性新生物(がん)の中において、大腸がんは男性でも女性でも罹患しやすいがんであり、大腸がんで命を落とされる方も多いことがお分かりいただけると思います。
がんが発覚した時の進行度合い(ステージ)によってその病気による予後予測(5年生存率)が異なりますが、大腸がんは早期に発見し適切な治療を行えば治りやすいがんでもあります。便潜血検査や便通異常など少しでも気になる症状がございましたら消化器内科への相談をおすすめします。
【病態】
大腸に炎症や腫瘍などの病気がないにもかかわらず、腹痛をともなう下痢や便秘が数か月続く際に最も考えられる病気です。ストレスなどによって腸の運動障害や知覚過敏となり、便通異常や痛みを感じやすくなることが原因と考えられております。命にかかわる病気ではないのですが、おなかの症状やそれに関する不安などで日常生活に影響が出ることも少なくありません。
【症状】
「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」「ガス型」といった分類がなされるほど症状は多彩です。
【治療】
どのタイプであっても生活習慣の改善が必要で、規則正しい食生活、適度な運動、十分な睡眠や休息、ストレスをためない、といったことが基本となります。生活改善で軽快しない場合には状態や症状にあわせて薬物治療(消化器系の薬)を行います。さらには漢方、抗アレルギー薬、抗うつ薬、抗不安薬などを使用することもあります。
腹部エコー検査とは
お腹に検査用のゼリーを塗りながら
超音波プローブという機械を腹部にあて、
腹部臓器の状態を調べる検査です。
肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓、脾臓、大動脈、膀胱、前立腺など
を観察することができます。
妊婦さんの赤ちゃん健診でも使用されるように
レントゲン被爆もなくとても安全な検査です。
短時間で多くの情報がえられとても有用な検査です。
胆のうと胆管について
胆のうや胆管は肝臓でできた胆汁という黄色い液体を十二指腸へ流す役割があります。胆汁は肝臓から肝内胆管へ流れ、まず胆のうで貯留されます。さらに食事摂取によって胆のうの収縮運動が起きるため、胆汁は総胆管から十二指腸乳頭を通って十二指腸へと流れ、小腸において食べ物の吸収が可能となるのです。
胆石症
【病態】
胆のうに石がある状態。
【症状】
みぞおちから右上腹部に痛みが出ることがあります。
【治療】
症状なければ経過観察。痛みの頻度や程度に応じて胆のう摘出術。
胆石性急性胆のう炎
【病態】
胆石が胆のうの出口を閉塞して、胆のう内で細菌感染する病態。
【症状】
みぞおちや右上腹部の痛み、発熱、黄疸
【治療】
絶食、抗生剤、胆のう摘出術、感染胆汁穿刺排液
胆のうポリープ
【病態】
胆のうの壁にできるポリープ。
【症状】
特にありません。検診などで偶然見つかりることが多いです。
【治療】
通常は経過観察です。
大きさが10㎜を超えると悪性化の可能性もあり手術をすすめております。
胆のうがん
【病態】
胆のうの壁に発生したがん細胞が徐々に広がっていく病気。
【症状】
癌が大きくなると黄疸、肝障害、痛みなど
【治療】
手術や抗がん剤治療。
総胆管結石
【病態】
胆汁の通り道である総胆管に石ができる病気です。
細菌感染によって重症化しやすいため緊急を要することがあります。
【症状】
みぞおちから右上腹部の痛み、発熱、黄疸、肝障害
【治療】
内視鏡的治療、絶食、抗生剤治療
膵臓について
胃の裏側にある15~20㎝の細長い臓器です。
2つの重要な機能、外分泌機能と内分泌機能があります。
外分泌機能とはアミラーゼなどの消化酵素を含んだ膵液を十二指腸に分泌する機能で、食べ物の消化を助けます。
内分泌機能とはインスリンやグルカゴンなどのホルモンを血液中に分泌する機能で、血糖のコントロールに重要です。
エコー検査で観察しますが、必要に応じてCTやMRIを行っていただきます。
急性膵炎
【病態】
アルコールや胆石による膵臓の炎症。重症化すると危険です。
【症状】
みぞおちや背中の痛み
【治療】
原因の治療、薬物療法、点滴、抗生剤
慢性膵炎
【病態】
アルコールなど慢性的な膵臓の炎症によって膵臓の機能が低下する病態
【症状】
腹痛、下痢、消化不良、体重減少、糖尿病の悪化
【治療】
禁酒、脂肪制限食、薬物療法、内視鏡治療、対外衝撃波結石破砕術、手術など
膵がん
【病態】
膵臓に発生したがん細胞が徐々に広がっていく病気。
【症状】
みぞおちや背中の痛み、黄疸、糖尿病の悪化
【治療】
手術、抗がん剤治療。